さて、今回紹介いたしますのは第一次世界大戦の空戦を扱った1ユニット=1機のスケールでシミュレートする戦術級空戦シミュレーションゲーム、
ブルーマックス
です。
ここで旧いシミュレーションゲーマーの皆様に。
当社が昔出していたのは
ジム・ハインドデザインのAces High(3W)とそのエクスパンション、Blue Max(3W)のコンボのブルーマックス(3W/HJ)で、リチャード・マクゴワンの赤いパッケージが目印。
豊富な機体に、プロット式で最低直進距離と姿勢を満たすことでマニューバを行うことができるというルールは、WWII傑作空戦シミュレーションゲーム、エアフォース(BL/AH)のWWI版と言えるもの。
ややこしいことに、このパッケージアートは後に同じくジム・ハインドデザインで、Red Baron(3W)に使われているので、こっちの日本語版だと勘違いしている人もいると思われますが別物です。
因みに日本語版の旧・ブルーマックスのマップはそれまでの空戦ゲームではよくあった無地・青一色の味気ないモノではなく、ホビージャパン誌が抱えるライターに作成してもらったジオラマを上から撮り下ろした美麗なものでした。
で、今回のブルーマックスはGDWの末期のシミュレーションゲーム、Blue Max(GDW)の完全リメイク・新版になります。
なお、このころのGDWはミニチュアゲームにいくつか手を出しており、Blue maxもその一環で、ヘクスマップと紙のカウンターは使用しますが、ミニチュアも用いてプレイできるものでした。
1ユニット=1機で当時としては驚きのフルカラーでWWI当時の航空機の塗装が再現されたカウンターは非常に美しく、ミニチュアでのプレイに対応するために、ルールもシンプルなものとなっておりましたが、今回はその内容を21世紀のDTP技術やユーロゲームで発展してきたコンポーネントデザインなどで復活させたわけです。
さて、今回のコレはシミュレーションゲーム。
ですので、シミュレートしている対象について先にいくつか説明を……
……実のところなんで起こってしまったのかよくわからない第一次世界大戦でありますが、最初は「すぐ終わるよ!」とか思われていたのがあれよあれよと云う間に長期化します。
その理由。
日露戦争にその予感をはらんでいたのですが、機関銃と陣地構築技術の発達により、歩兵や騎兵による突撃などはブロック塀に生卵をぶつけるような結果しか生まない状態となります。
結果、兵隊たちは塹壕を掘り、鉄条網をめぐらせてにらみ合い。
兵士を動員し、物資をため、頃合を見計らって地上に出て前進しても山のような死体を生み出す結果になる。塹壕を掘り進み敵陣地まで進攻して戦闘に勝利しても数百メートル進めるだけで、そこも次の敵の攻勢で奪い返されるなど、一進一退が続くありさま。これじゃいかん、ということで人間は工夫をするもので、当時考え出されたものや、社会で使いだされたものや、思いついたもの等々、いろいろと実戦に投入されます。
たとえば戦車。当時商業的に販売され始めた自動車も、戦場にすぐ投入されました。
その車輛を、戦場で弾をはじき返しながらタイヤよりも走破力の高い無限軌道で塹壕を超えていくことができるといいよな! という発想のもとに作られたのが戦車です。
なお、その名前は暗号名の『水槽』から『タンク』となったのです。また、塹壕にいる兵士を効率殺すために、科学者も工夫をします。
空気より重い毒性の科学物質――毒ガスは使われ始めた瞬間から次々と改良されていき、戦場で兵士たちの命を、短時間で、無差別に、大量に奪うこととなりました。実用化されたばかりの潜水艦も、無制限潜水艦作戦――とりあえず味方の船以外は全部沈めちまうぞ、と言うわけですな――に投入された結果、おびただしい商船が水底へと引きずりこまれることとなりました。
日本の駆逐艦隊も派遣されて、『いつ沈められるかわからない』という恐怖と戦いながら、同じ恐怖におびえる商船の護衛戦闘に従事していたりします(そしてこの教訓がなぜか生かされなかった結果が、次の戦争の結末だったりします……)。このように死んでいく人員も無尽蔵というわけでは無いはずなのですが、鉄道の発達による大量の物資輸送や動員は、かつての戦争では崩壊したであろう戦線をその輸送力で支えてしまい、結果逆説的に負けることはなく、戦争は続けられることとなってしまいました。
そう、かつての戦争とは様相を変え、個人の勇気や意思などが介在するまでもない、人の命がただのリソースとして大量に消費される国家総力戦となったのが第一次世界大戦です。
そして自動車と同様に、当時投入されたのが生まれて間もない飛行船や飛行機だったのです。
当初飛行機は発達した重砲の着弾観測に使われたり、偵察に使用されます。
が、次第に煉瓦を地上に落としたり、小型の爆弾を落としたりと、攻撃に使用され始めます。そうなるとそのような邪魔な偵察や航空攻撃を行う航空機をどうにかしようとするわけです。
最初は、とりあえず地上に落とすはずの煉瓦なんかを投げつけるわけです。
そして飛行機の中に自前で持ち込んだ拳銃や小銃で敵機を敵機に撃ったりするような手段をとります。
そのうち、飛行機自体に機銃を備えることを思いつきます。
これが、戦闘機――制空権を得るためにほかの飛行機と戦う飛行機の誕生です。
(因みに。紅の豚のポルコとカーチスの決闘は、最初は前方機銃、拳銃、モノを投げ合う、地上に降りてなぐり合うという逆の順をたどっているのです。)しかし、航空技術自体はまだ未熟なもので、その発動機はゲームに登場するフォッカーDr.Iでたったの110馬力に対して、スバルのインプレッサWRXの2013年モデルは約300馬力。
「永遠の0」で登場する零式艦上戦闘機52型で1130馬力、風立ちぬで登場する九試単戦で450馬力位、紅の豚のサボイアS21は600馬力と言った感じですな。この非力な発動機を搭載した、未熟な航空力学の産物である飛行機に乗るということは、ご想像の通り非常に勇気の必要なこととであり、またその訓練なども今のような体系だったものではなかったため、主に訓練などにかまけることのできる、もしくは個人で飛行機が買える程度にお金持ちで、その地位に伴う義務を果たすのが信条で、勇気を示すのが常識であった、つまり飛行技術を持った貴族たちが当初中心となり、次第に一般民衆出身のパイロットが増え始めていったわけです。
(同じ感じで騎兵将校も貴族が多いわけですよ。)しかも無線技術も未熟な時代であるため当然機載無線は無く、一度乗りこんだら頼れるものは自分だけ。
航空力学がまだ未発達で強度計算などまだ確立していないなか、試行錯誤で設計された機体は、今の目で見ると低馬力の発動機しかなく無理な機動を行えばあっという間に高度と速度を失い墜落しかねない一方、そのクセの強い機体をねじ伏せる技量がある搭乗者は次々と新たな機動を発明していきました。
その戦いは、地上でお互い顔を見ることもなく毒ガスに倒れたり、あるいは塹壕の中で泥まみれになりながらスコップで敵となぐり合うような凄惨なものではなく、互いの技量と航空機の性能と名誉をまだかけることができたものであり、そしてその騎士の名誉をかけた戦いが死を迎えた、最後の戦場だったと言えるでしょう。
プレイヤーであるあなたは、そんな第一次世界大戦で空を選んだ勇気ある男です。
シミュレートしているレベルは、パイロット個人の立場。その選択とジレンマと勝利は、パイロットが当時選ばなければならなかったもの、と言うわけです。
与えられる機体は、以下の6種類――初回に予約した忠誠度の高いキミにはさらに1種類――の中から選ぶことになります。
<独>
フォッカーDr.I
言わずと知れたフォッカーの三葉(車輪の間にも翼が実はあるから四葉?)戦闘機。
赤い彗星のシャアの元ネタと思しき、赤い機体で有名なリヒトホーフェン機も入ってるよ!
<独>
ハルバーシュタットCL.II
戦闘機と戦っても、爆撃に使っても優れていた戦闘攻撃機。
<独>
アルバトロスDIII
重武装・高機動、そして使いこなすのが難しいという厨二機体。
<英>
ソッピーストライプレーン
強力な発動機を搭載し、高性能高機動を目指した名前通りの三葉機。
<英>
ブリストルF.2B
わりと初期から使われている多目的複座機。
<仏>
ニューポール24
「フランスの戦闘機は先進的だなぁ」と言うことで日本でも使用された高性能機。
ニューポール17
初回出荷特典です。初回特典はあとニューポール24の別塗装が2機。
初動が大事なんで、よろしくお願いします。
初動が大事なんで、よろしくお願いします。
これらの機体はそれぞれ性能が異なっており、その性能は1枚のシート(「飛行マニュアル」)に収まっています。
ターンシークエンスは大まかに説明すると、
1)マニューバのプロット
2)同時に公開して移動
3)射撃
を繰り返す形で進行します。
さて、航空戦で重要なのがマニューバ(機動)です。
物理的に前方を向くように備え付けられた機銃は命中率がよく、結果お互いに敵の後ろを取るために体力と技術の限り宙を舞う――犬同士のけんかのようなのでドッグファイト――が生まれたわけです。
機体の性能の見方は、黄色のヘクスが移動開始時にいるところで、何処にどの向きで移動するのか、各マニューバが描かれているわけです。
指でさしている<14R3>をプロットすると、写真のような旋回をすることになります(※写真が見えないという人はクリックで別ページ>そこでまたクリックで拡大するよ)。
手前が速度1の時、真ん中が速度2の時、いちばん外側が速度3の時の可能な機動です。
写真は速度3で緩い右旋回となります。
赤枠の機動はアクロバット飛行で、直前のマニューバが直線(黒太枠)の時だけプロットできます。また!マークのマニューバは連続で選べません。
これを記録シートに記入して、一斉に見せることで同時に移動が解決されます。
これらを機体の性能と照らし合わせ、相手の位置と可能な機動から行動を予測し、射撃位置である前方3ヘクスへ敵機を収めようとするのです。
えー、実は結構難しいです。
実際の戦闘はもっと難しくて、いわゆる『エース』は5機撃墜で初めて呼ばれる称号です。
因みに称号的な意味としてはゲーマーなら予想可能だと思いますが、『切り札』と言うこと。
つまり、「キミがいれば勝てる!」というかなり有能なパイロットなわけで、ふつーの人は戦闘空域に入って、くんずほぐれつ飛び回って、結局何事もなく帰投する羽目になる感じです。
また、無線機の無い時代なので、空中で僚機と意思疎通は近づいて身ぶり手ぶりくらいしかないため、ゲームでもプレイヤー同士会話できないというルールがあったりしますので、乱戦の場合は以心伝心が重要となります。結果、基本的に1対1で戦う事になりがちですが、うまく連携ができたりするとグッとくるものがあります。
うまく射界である前方3ヘクスに、マニューバ後に敵機を収めることができたら、射撃を行います。
ここは新ルール部分。
到達火力の個数(最大6個)だけダイスを振り、青か赤の目の数を確認します。
敵機の向いている方向によって、使うデッキが変わりますが、そこから赤の目と青の目の数だけカードを引いて、その色ごとに結果を適用します。
機体構造にダメージが入るほか、特殊なダメージとして主翼が破断したり、方向舵が故障したり、発動機が火災を起こしたり、パイロットに命中したりする場合があります。
機体構造以上にダメージがかさむと撃墜されるわけです。
基本のルールはこれだけですが、他にも高度、燃料、弾薬、追尾などのルールにより、初心者でも本格的に空戦を楽しむことができます。
また、大型のヘクスは1/144サイズのWWI航空機キットに対応しており、高度は5段階しかないため(当時は水平面での戦闘が中心だったので、それほど細かく高度を表現しなくてもよいのだ)、腕に自信のある模型製作者なら、簡単にミニチュアを使用してのゲームに挑戦できます。
キットは輸入キット扱い店やウェブで探すといいと思うよ。
ルール的にはシンプルな部類のため、この時代の空戦が好きな方や、シミュレーションゲームに挑戦してみたいあなた、実はミニチュアゲーマーでありその世界にほかの人を誘いこみたいあなた、映画のブルーマックスが好きなあなた、紅の豚のポルコの人間時代の空戦に興味があるあなた、チェスのように相手の思考を読んで一歩ずつ追い込むのが好きなあなたにお勧めいたします。
因みにマップは冒頭でも書きました、当社の旧ブルーマックスにインスパイアされたであろうジオラマ風マップ面もあります。
ブルーマックス
プレイ人数:2~6人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:約90分
発売:ホビージャパン
デザイン:フィル・ホール
価格:6000円+税
絶対新機体が入ったエクスパンションが出るはずなんで、迷ってるヒマがあったら購入を。
あとこれが売れてくれると、ほかのシミュレーションゲームも企画が通しやすくなると思う。