と、いうわけで今年のGEN-CONの話をちょっとだけ。
「ダイスゲームがチョイ流行だったよ!」とのことで、TSRから出ていた『ドラゴンダイス』が版元変わって新スタートしていたりとか、カードドラフトゲームにしてダイスゲームの『十二季節の魔法使い(Seasons)』はAsmodeeブースで少数先行販売が瞬殺だったりとかしていたみたい。
ほかにもアレのダイスゲームが!(社外秘)、とかアレもダイスゲームに?!(社外秘)とかもあったらしい……。
やるかはわからんが。
で、今回紹介いたしますのは、そんな流れにピッタリな
D-Dayダイスです。
D-Dayとは、1944年6月6日に連合軍によって行われたフランス・ノルマンディ海岸への史上最大規模の上陸侵攻作戦、『オーバーロード作戦』の決行日を”D-Day”としたことから。
この日以降、この海岸を足掛かりに、連合軍はドイツ軍との戦いを進めていくことになるのです。
映画だと『史上最大の作戦(The Longest Day)』や『プライベート・ライアン(Saving Private Ryan)』
史上最大の作戦は水野晴郎による名意訳。
プライベート・ライアンは……Privateは兵卒(1等兵か2等兵)のことで「兵卒のライアン救出」のことだけど、カタカナ音訳では、(たかだか)兵卒であるライアン1人を救出するために、作戦として小隊全体が死地に向かう戦争映画であることが分からんよな。
『ライアンの私生活』だと思っている人もいまだにいるんじゃないか。
シミュレーションゲームでは有名な作戦でもあるため、AHクラシックの『D-Day』や『The Longest Day(史上最大の作戦)』(AH)、『Breakout Normandy』(AH)、『史上最大の作戦(D-Day)』(EP)、『大西洋の壁(Atlantic Wall)』(SPI)などなど、全体像から一部の戦区のものまで山盛り出ているテーマです。
ちなみに、1944年のアルデンヌでのドイツ軍反攻戦、いわゆる『バルジの戦い』もそうですが……有名な作戦は商品名がかぶってダメだね(笑)。後から出る商品ほどタイトルに悩んでいる気がします。
今回は悩んだ結果が“D-Day Dice: Do or Die!”。
韻を踏んでなお駄洒落。
さて。
プレイヤーの役割は小隊を率いる士官で、兵士や勇気などのリソースを管理しながら、上陸作戦の最初の障害となる『陣地』(訳語は陣地となっていますが、コンクリートの本格的な防御陣地から、普通の重機関銃を据えた歩兵壕、沿岸砲台まで含めております)を制圧するのが目的の戦術級シミュレーションゲームです。
ゲーム自体は、シナリオが8本あり、ゲームシステムに対して決断を迫られ、プレイヤー間で協力してこの与えられた役割を果たす協力型/ソリテアゲームでもあります。
シナリオは全部で8本あります。
『シナリオ1:タイガー演習』
これは実際のD-Day前に行われた実戦さながらの演習で、大量の死傷者を出したいわくつきの演習作戦です。
『シナリオ2:オマハ海岸』
『シナリオ3:ユタ海岸』
『シナリオ4:ゴールド海岸』
『シナリオ5:ジュノー海岸』
『シナリオ6:ソード海岸』
上記の5本はオーバーロード作戦での5つの主要上陸地点のシナリオ。
『シナリオ7:ポワント・デュ・オック』
これはユタとオマハを射程に収めた、オック岬にある沿岸砲台を攻略するシナリオ。
『シナリオ8:メルヴィル陣地』
こちらもメルヴィル砲台陣地攻略のシナリオで、英・加空挺部隊によるトンガ作戦のシナリオ。
このシナリオごとに、プレイヤーの初期のリソースは異なり、また登場する『専門技術者』(特殊な技能の保持者、特別な訓練を受けたもの、特別な役職、資格保持者、普段からの役回り、なども含めてゲームでは『専門技術者』と呼称します/いわゆる『特技兵』以外にも登場します/なお、登場するのは陸軍歩兵のみで、このゲームでは砲兵や戦車兵などの特科兵は出てきません――空挺兵も空挺作戦後の精鋭的な意味合いでしか出ません)、『装備品』(手榴弾、火炎放射器、バズーカなどの武器からアンフェタミンや携帯聖書などの兵士に配給される装備などなど)、『車輛』などなどが決まっています。
たとえば、オマハ海岸では最初のリソースは兵士4人のみです。
海岸は―――敵陣地からの絶え間ない機銃射撃で身動きできなくなっている兵士や、すでにこと切れている同胞、海岸にひしめくもまだ上陸地点までたどり着けない上陸舟艇、水浸しになって転がっている重火器の弾薬箱などでごった返しており、あなたが掌握できて、組織だって行動できるのは4人の兵士だけなのです。
しかも、このマップに書かれている楯の中の数字は、この戦区の戦闘フェイズに減る兵士数。
後から出てくるスタート戦区の数字は3なので、そのままいると毎ターン3人ずつ死傷して、部隊から脱落していくのです。
※追記:死傷以外に精神的に打撃を受けて兵士としての行動が取れなくなったというのもふくむと思われます。
ゲームの手順は以下の流れになります。
1:ダイスを振る
2:補給
3:専門技術者と装備の獲得
4:移動
5:戦闘
<1>では各色2個ずつのダイスを振ります。
第1投目は強制的にふった目のうち2個をわきによけてとっておかなくてはなりません。
そのあと、残った4個のダイスから好きなダイスをふって、さらにその中でふりなおしたいダイスをふって、ダイスの最終結果を決めます。
ダイスの目は6種類あり、専門技術者を獲得するための★ポイント、近くで震えている兵士を自分の部隊の統制下に加える兵士ポイント、前進に使用する勇気ポイント、装備を獲得するための工具ポイント、ほかの目を1つ打ち消す髑髏があります。
さらに、赤・白・青のダイスで同じ目が出た場合、その目に従って特別な結果を獲得できます(これをRWBボーナスと言います)。
また、すべての目が6種類各1個ずつ出ると、通常の結果に加え特別な効果を持つ勲章カードを獲得できます。
※実際は勲章の文章にはシールが付きますのでご安心を
ではためしに……
部隊を表すダイスはこれ。最初の面はこれです。
何とか海岸線にたどり着いた……俺の周りは4人の兵士だけだ。
<2>で補給を受け取ります。
これは出た目のリソースを、今のリソースに加えます。
リソースの管理はこちらのダイヤルを使用して行います。
水浸しになりながら、兵士10人を指揮下に収め、工具1と勇気1となりました。
協力型の部分は、このリソースを同じ戦区の部隊間で融通できるということ。
兵士が足りない部隊に兵士を回したり、勇気を分けてもらうのです。
<3>専門技術者と装備はまだ得られない。
もう少しリソースを貯めないと。
<4>で移動。
移動は地図のこの数字の勇気を支払って前進します。
しかもこの時、移動できるのは前か横だけで、一度侵入した戦区には再び入ることはできません。
さらに、同じ戦区にとどまっていられるのは3ターンまでで、4ターン目には次の戦区に移動しなければならないのです(後から上陸部隊はどんどん上がってくるし、いつまでももたもたしていられないのです)。
先ほどのダイスの目は、何ターンこの戦区にいたのかを表示するために使います。
シェブロン(山形のマーク)の数が、とどまったターン数。4ターン目には次の戦区を選んで移動しなければなりません。
しかし、次の戦区の戦区2も戦区3も、盾のマークが黒い……つまり、ここにはとどまっていることはできないのです(砂浜は地獄絵図――つんざくような音を立てて、ヒトラーの電動鋸が吐き出す雨のような鉛弾が降り注いでいます)。
10名の兵士で前進して、勇気を消費して、次の戦区ではとどまっていられないし6人が脱落するのであれば、今ここで3人死亡しても勇気を貯めておいたほうがよいのではないか?
というわけで。とりあえず、前進はやめておきましょう。
<5>戦闘の解決で……兵士は7人に減りました。3人が死傷したわけです。
次のターンにも兵士を補充しつつ、勇気を振り起さないと……しかも地雷原が目障りだから、地雷除去のできる奴を部隊に組み込まないと。
とまぁ、こんな感じで繰り返し、何とか陣地に兵士を突入させれば勝ち。
ルールは簡単ですが、ドイツ軍は海岸線に地雷原や機銃陣地による十字火点が待ち受け、シナリオによってはダイスを振ることができる数が減らされたり、特定の専門技術者を死亡(脱落)させなければならない戦区もあります。
さて、このゲームのシミュレートしている点は何かというと、その時小隊長が直面したであろう問題と、取らなければならない決断です。
前述しましたが、最初は五月雨式に上陸舟艇から上陸できた兵士数名がいるだけです。
烏合の衆である、そこらで震えている兵士をまとめ上げ、鼓舞し、装備をかき集める指示を飛ばし、敵の構築した濃密な火線に向かって前進させるわけですが、その命令を下すことで必ず誰かが死にます。
ゲーム上では、ただ単に「兵士リソースが減る」だけで、何人死ぬことになるかまでわかっています。
実際の小隊長は、この「死ぬのがわかっている命令」を、一緒に訓練した、名前も素性もわかっている部下を目の前にし、誰を手元に残し誰を突入させるのかを決断しなければなりません。つまり。極端に言えば誰を殺して誰を残すのかを決断しなければならないのです。
お前は死んでもいい、お前はまだ死ななくていい。
その選択を行う時、使えない奴に命令を下すのかというと、それでは無駄に死傷者を増やすだけになります。全体の戦闘力を維持しつつ、作戦を成功させるために誰を死ぬかもしれない行動に移らせて、誰を控えさせるのか。
ゲームでは兵士の顔は見えませんが、リアルな数字で突きつけてきます。
指揮官としてプレイヤーが判断しなければならないのは、今自分の部隊にとって重大なのは兵士を奮い立たせる言葉なのか(勇気)、そこらにいる兵士を叱咤して組織行動をとらせる言葉なのか(兵士)、あたりを見回して本来使えるはずだった装備をかき集めて戦闘の準備をすることなのか(装備)ということです。
ダイスを振るのは、その行動の結果は常に決まったものではないということです。
そしてそのためにプレイヤーが立案しなければならないのは、陣地に兵士を突入させて制圧するという目的を果たすために、どのようなルートで前進するのかという前進計画です。
目の前の障害と、あるであろうリソースをもとに、計画を決めなければなりません。
史実の激戦地であるオマハでは、死傷率は50%にものぼりました。
シミュレーションゲームの要素の一つである、その立場に立たされた指揮官=プレイヤーのしなければならない決断事項と直面する問題点の再現という点で、これはまごうことなく、シミュレーションゲームなのです。
なお、ゲームのテーマを楽しめる場合より一層楽しむことができますので、事前に前述の映画などを見てからプレイをすることをお勧めいたします。
D-Dayダイス(D-Day Dice)
プレイ人数:1-4人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:約45分
ゲームデザイン:エマニュエル・エイキン
製作:Valley Games
価格:5,000円+税
※追記
ルールブック訳語に間違いがありました。海軍での呼称と間違っている部分があります。
大尉⇒中尉
大佐⇒大尉
に訂正いたします。